第一話
ダニー:怖い目に、遭ったみたいだね。
ダニー:レーチェル、ボクはダニー。君のカウンセリングの先生だよ。何があったのか、話してくれるかい。
レーチェル:…ここは?青くてきれいな月。でも、偽物みたいな青い月。…はやくお父さんとお母さんのところへ帰らないと。
レーチェル:わたしは病院に来ていた。でも、ここじゃない。
レーチェル:「キミは一体誰で、何者か。自身で確かめるべきである。本来の姿か望む姿か、天使か生贄か、己を知れば、門は開かれる。」
レーチェル:いつものわたし。
レーチェル:レーチェル・ガードナー。
レーチェル:病院に来ていて、気が付いたらここに。
レーチェル:それは…
レーチェル:人が死ぬところ、殺されるところを見たから…だから、カウンセリングに連れてこられた。
レーチェル:はやくここから出たい。お父さんとお母さんに会いたい。
レーチェル:出口?
アナウンス:最下層の彼女は、生贄となりました。皆さん、各フロアにて、ご準備を。
レーチェル:今の放送、何のこと?
アナウンス:ここから先は、プレイエリアです。
レーチェル:プレイエリアって。ここ、本当に建物の中なの?とにかく出口を探さないと。
レーチェル:誰か、いるの?
レーチェル:血?あっ、小鳥?ケガしてる。あ、だめだよ逃げちゃ。怖くないよ。さ、こっちへ。ここから一緒に出よう。
ザック:ひゃっははははははは!お前は満ちた顔しやがったな。でも、今は絶望で。三秒数えてやる。だからさあ、逃げてみろよ。そして、泣いて叫んで命乞いをしろ!もっと見せろ、絶望の顔を!さーん、にー、いーち!やーははははは!やーははは!やーははっはは!
ザック:あーあ、どこへ行きやがった?隠れやがったか。おい、出てこいよ。って出てくるわけねえか。
ザック:チっ、外れた?
ザック:いねえか。
レーチェル:あれに見つかる前に、ここから逃げないと。捕まったらたぶん、殺される。あの小鳥は、もう…
レーチェル:違う。この小鳥は違う。こんなのじゃなかった。こんな姿じゃない。こんな、かわいそうじゃない。あの小鳥に治してあげないと。大丈夫、もう痛くないから。私の小鳥に、直してあげる。
レーチェル:これでもう大丈夫。
レーチェル:この先にエレベーターがあるのかな。
ザック:ひゃっははははは!やっと見つけたぜ。今度は一秒も、待ってやらねえ!
レーチェル:はやく、はやく、はやく!
レーチェル:病院?
ダニー:レーチェル、ボクだよ。キミのカウンセリングをしていた、ダニー先生だよ。
レーチェル:え、わたしのカウンセリングの先生?
ダニー:そうだよ。覚えてないのかい?
ダニー:そうか。少し混乱しているみたいだね。安心して、ボクは確かにキミの先生だよ。
レーチェル:先生?
ダニー:うん。
レーチェル:あの、わたし、追いかけられたの。あれは?
ダニー:恐らく、キミを追いかけてたのは、殺人鬼だ。
レーチェル:先生、はやく逃げないと。
ダニー:大丈夫。そいつはこの階には、上がってこないよ。僕を信じて。
レーチェル:う、うん。
ダニー:レーチェル、二人で出口を探そう。
ダニー:キミが無事でよかったよ。
レーチェル:先生はここから逃げなかったの?
ダニー:だって、キミがいるからね。レーチェルなら、ここまで来られると思ってたよ。
レーチェル:わたしを待ってたの?
ダニー:…。
レーチェル:わたしがいることっ…
ダニー:そんなことより、上に行く方法を見つけないと。
ダニー:破れる厚さじゃないね。
レーチェル:どうすれっ…
ダニー:なんだか、二人で閉じ込められているようだね。
ダニー:ああ、ごめんね。怖がらなくてもいいよ。二人でゆっくり過ごせば、なにかいいことが起きるかもしれない。レーチェルにも、ボクにとっても、いいことが、ね。
レーチェル:いいこと?
ダニー:あっちの部屋に行ってみよう。
レーチェル:自分の望みをしているか。欲望をしているか。それが本能であるならば、抗う意味など無に等しい。なぜならそんな意味すら、ここにいるキミは持たないのだから。ただし、望には対価が要る。ルールが破らぬように。
レーチェル:ルールって?
ダニー:ここにはルールがあるんじゃないかな。
レーチェル:じゃあ、この望って?
ダニー:それは人によって違うだろうね。ボクなら、きれいな目がほしいな。ボクは片目がよくなくてね。キミのような目がボクのだったら、それはそれは素敵だろうね。
レーチェル:何か書いてっ…
ダニー:やめなさい。目にゴミが入る。キミは目を大事にしなさい。とてもきれいな目なんだからね。さ、ほかの部屋にも行ってみようか。
レーチェル:ここは?
ダニー:手術室だよ。レーチェル、その目をよく見せてくれないか。
ダニー:本当にきれいな目だ。ボクの母に似て…なのに、恐怖に怯えた目をしてしまって、まるで普通な目だ。ボクは悲しい。キミの本当にきれいな目を見たい。この悪夢から目を覚ませば、
キミの瞳に、あの青い月のような、美しい静けさが戻ってくるのかな。レーチェル、ボクはね、その瞳のそばで生きていたいんだよ。
レーチェル:せん…せい…
ダニー:そうだった。このあたりに、大事なものを置き忘れてしまったんだ。探すのを、手伝ってくれるかい。
レーチェル:探し物?
ダニー:僕はこの部屋を探すから、キミは奥の部屋を探してくれないかな。ボクが何を探してるのか忘れてしまったのかい。ボクを見つめてごらんよ。そのきれいな目で。ボクは、どんな顔をしていたっけ。ふ、ヒントをあげる。ボクの瞳は、アレキサンドライト。レーチェル、奥の部屋は暗いから、気を付けてね。
レーチェル:義眼?
ダニー:レーチェル。まだ思い出せないのかい。ボクと、病院以外で会ったときのことを、思い出してごらん。
レーチェル:先生と外で会った記憶はない。
ダニー:ああ、それだよ。見つけてくれてたんだね。
レーチェル:この義眼、先生のものなの?
ダニー:それを見ても、何も思い出さないのかい。
ダニー:キミはまだ、夢の中なんだね。それを貸してくれるかい。キミとボクのために必要なんだ、レーチェル。
レーチェル:は、はい。
ダニー:ありがとう。ボクは今から、これをつけるから、すこし向こうの部屋で待っていてね。レーチェル、逃げちゃ許さないよ。
レーチェル:おかしい。わたしの知ってる先生じゃない。逃げないと。
レーチェル:固い…!でも、もうすこしで…!開いた!
ダニー:どこへ行くんだい。逃げちゃだめだって言ったろ。
レーチェル:あ、あのう…
ダニー:ここはね、ボクのフロアだよ。
レーチェル:せん、せい…
ダニー:このフロア以外に逃げたら、ボクの手でキミをどうにかできなくなるじゃないか。
レーチェル:いや…
ダニー:キミの生きた目をそばで見続けることが望だったのに…もうだめだ。仕方ないんだ!キミはもう理想のボクの生きた青い目じゃない!だから、レーチェル、その目をボクにちょうだい。
レーチェル:離して!
レーチェル:お願い。先生、やめて。
ダニー:ボクは悲しいよ。キミは自分自身のことも、ボクのことさえも、忘れてしまったんだね。ねぇ、思い出せないかい。どうしてキミがこんな目に遭っているのか。レーチェル、あの素晴らしい青い瞳に戻って、僕とともに生きよう。
レーチェル:いや、やめて…
ダニー:はぁ、だめか…それでもきみの瞳は、今までのどの人間の眼球よりもずっとずっと美しいよ。
レーチェル:離して。お父さんとお母さんのところへ帰りたい。
ダニー:大丈夫さ。お父さんとお母さんにはすぐに会えるよ。
レーチェル:え?
ダニー:キミのお父さんとお母さんは、地獄で待っている。
レーチェル:地獄…?
ダニー:さあ、レーチェル。眼球を…。レーチェル?あ、レーチェル!ああ、そうだよ!それだよ!キミはなんて素敵な目をするんだ!さ、ボクとともに生きよう、レーチェル!ボクはなんて幸福なんだ!
ダニー:お…ま…え…
ザック:ぎゃははははは!おいおいダニー、なんて幸せそうな声を出してやがんだ?我慢できずに切っちまったじゃねえか。なぁ、お嬢ちゃんよ。てめぇを追いかけてきたらとんでもねえことになっちまったな。ね、生きたいか?なら今すぐ逃げろよ。逃げてもがき、希望を抱いてな。そこをぶっさしてやるよ!
ザック:あ?チっ、つまんねえ顔だな。お前生きたいと思わねえのか。俺はまともな成人男性だから、お人形さんを切り裂く趣味はねえんだよ。あ?
アナウンス:フロアB6の者が、フロアB5の者を攻撃しました。ルール違反により、裏切者が生贄となりました。
ザック:は?冗談じゃねえな。くっそ、逃げるか。
レーチェル:そうだ。わたしは、生きてちゃ…
ザック:くそが、開かねえ。どうすりゃいいんだ。さっぱりわかんねえ。あ、ああ?何だお前、のこのこ現れやがって。
レーチェル:あのね、お願いがあるの。
ざっく:あ?
レーチェル:お願い。わたしを、殺して。
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